忌々しい朝の音。
沸いたケトルのお湯、オリーブオイルのひかれたフライパン、そこに落とされた卵が焼かれて、極めつけにiPhoneの嫌な木琴が鳴った。
殴るように止めた後、白い海の中を気だるい体で泳いでから枕元に丁寧に用意された着替えを手に取る。
きっと茹だるように暑い路面を13階から見下ろした。そんな事を一縷も感じさせないエアコンの風が私に吹きついて肌寒い。
何だか苛ついて、きれいな畳皺のついたTシャツをわざとぐちゃぐちゃにしてから纏った。
ご機嫌に朝食を作る男を横目に早足で洗面台へと向かう。こっぴどい顔が映る鏡すら、それ自体になんの意思もないはずなのに私を笑っているみたいに思えた。
平気な声で「食べてけよ」と言えるその男が、憎くて難くてたまらなかった。
掠れた声で返事をしようにも、声を出せば気持ちが男に露見してしまいそうだ。
黙って目玉焼きとトーストと、それからサーモンの乗ったサラダを食べる事になってしまった。
逃げるように外に出た。駅の時刻表はやっと8時になったころ。
ろくにパウダーも乗せなかったせいで、拭った汗は土気色だった。