はじめて肌をあわせた日は、まだ少し肌寒さが残っていた。お互い暖を取るみたいに擦り寄った朝が記憶に残っている。
白を基調として丁寧に揃えられたインテリアが彼の性格を良く表していて、日が上りきらない青い光が差す空間が美しかった。
いつからだろう。彼が私に口付けをしなくなったのは。
幾度も情事を重ねた。そのうちきみはキスを唇に落とさなくなって、惜しむように額に重ねるそれを眺む事が増えた。
大事な人が出来たのだと、そう思った。とっておきの特別にしてあげたくなるような人が見つかったのだ、と。
私には恋をする余裕なんて無かった。生きるだけで、当座凌ぎするのに必死だった。
だから羨ましかった。それだけ誰かを大切にできる余裕がある事が、どれだけ恵まれたことなのか。
空いた口元を埋めるために煙草を買ったのに、吸おうと思って取り出した途端取り上げられてしまった。
欲張りな男だな、と思う。
それでもそんなことを飛び越すくらい、体の相性は良い。
大したことがないのに何度も体を重ねるなら、それは恋とか愛とか、そう形容出来ただろう。
麻薬だった。お互いに離れられなくなってしまった。だから、この感情が生まれたのがなんなのか、迷子になってしまった。